凡例:緑字は訳注 薄紫字は音源に関する注
ラ・コート・サンタンドレ発、1832年10月10日
アンベール・フェラン宛
親愛なアンベール、手短に話そう。前に取り決めた時期よりも早く来てもらわなければならなくなった。11月半ばまでパリに向け出発せずにいたのでは、演奏会を開き損なうおそれがあることに気付いたのだ。それで、今月末に発つことにした。だから、是非とも10月の最終週に来て欲しい。そうすれば2人で作戦を練り、将来に向けた計画をしっかり消化吸収する時間が、たんと持てる。僕はその後、リヨンまで貴君に同行する。そこで僕らは別れるが、そのときにはもう、互いにすっかり飽和状態になっているはずだ。この短信を受け取ったら、すぐに返事をくれたまえ。こちらへの到着日を知らせて欲しい。両親は貴君の前回の来訪がとても感じのよいものだったことをよく覚えていて、また会えることを楽しみにしている。ご来訪を心待ちにしている旨、貴君に必ず伝えて欲しいとのことだ。ただ、上の妹だけは、もうここにはいない。本人はそのことをたいそう残念がっている。彼女は貴君を大いに評価しているからね。代わりに、僕は貴君の弟に期待している。是非とも一緒に来てくれたまえ。『ハムレット』、『オセロ』、『リア王』の各巻と、『ヴェスタの巫女』[スポンティーニのオペラ]の総譜を持ってきてくれたまえ。これらはすべて、僕らの役に立つ。
僕らの大スペクタクル(notre grande machine dramatique)[かねてフェランに台本を依頼していた大規模オラトリオ又は3幕のオペラ『世の終わりの日』(1月8日の手紙参照)のこと]について、貴君が何か僕に見せるものを持ってきてくれることまでは期待していない。とはいえ、そのことを貴君は僕に確約してくれているのだが[3月26日の手紙参照]。
まあ、とにかく来てくれたまえ。そして、何よりまず、連絡をくれたまえ。
ご両親に、そしてとりわけ貴君の素敵な奥さんに、宜しくお伝えください。
さようなら、友よ。
弟さんに宜しく。(了)[書簡全集288]