手紙セレクション / Selected Letters / 1830年9月3日(26歳)-2

凡例:緑字は訳注

パリ発、1830年9月3日
ベルリオーズ医師宛

大切なお父さん、
一昨日、どうやら僕のことをひどく心配してくれていたらしいアデールからの手紙を受け取りました。彼女が喜んでくれたことはとても嬉しいのですが、お父さんかお母さんからの手紙も、いただきたかったところです。
今回得た成功がこれまでのどの成功にもましてお父さんたちに満足してもらえたと思うととても嬉しいので、この賞[ローマ賞]についても、そうでなかった場合とは、まったく異なる見方をしないではいられません。僕は、この賞の給費を、パリで受け取ることを希望しています。僕が願い出ようとしているこの特別待遇は、画家がひとり、以前に認められていることが、最近分かりました。この働きかけについては、ペリエ家の支援が受けられる見込みです。アレクサンドル[・ペリエ]氏と先日食事をしたのですが、僕に好意をもってくれている様子でした。ヴィクトル叔父にもダルグ氏への紹介状をお願いし、返事を待っているところです。ローマ賞の伝達式は、10月30日に延期になりました。翌11月1日、諸聖人の祝日には、イタリア劇場で、僕がいま作っているコーラス、ピアノ、オーケストラのための大規模な序曲(シェークスピアの『あらし』を題材にしたもの)が演奏されます。続く11月21日には、ムニュ・プレジールで大規模な個人演奏会を開き、『秘密裁判官』序曲、『幻想交響曲』、ムーアの『[アイルランド9]歌曲集』の合唱付き歌曲2つを演奏します。この演奏会では、このほか、外国の音楽も演奏します。僕は、これらの企画から少なくとも1000フランは利益が上がるものと見積もっています。僕らの売り上げから法外な取り分を奪い去っていたあの破廉恥きわまる救貧税が廃止になるとの噂もありますが、そのことがどうなるにせよ、首尾よく徴税吏を説得するつもりです[ je saurai bien mettre le fermier à la raison.  〜売上から一定割合を納付する方式に代え、定額を事前納付することとする交渉を当局とまとめ、節税する、との意と解される。]。ローマ賞の給費は来年1月にならないと始まらないのですが、僕は被服費を支払ったばかりで、今から演奏会までの間が手許不如意になっています。まともな衣服が黒の燕尾服だけになってしまい、そればかり着ている訳にもいかなかったのです。[レッスンの]生徒たちがみな田舎に出かけてしまっていていまは1人もいないのですが、11月以降に受け取れるはずの[レッスン料]200フランを年末まで前貸ししていただければ窮地を切り抜けることができます。大切なお父さん、僕はついにあと少しで完全に自分でやっていけるところまで来ています。残る課題はオペラ劇場に足を踏み入れることだけですが、それにもそう長くはかからないでしょう。
さようなら、大切なお父さん。愛情を込めて抱擁します。
H .ベルリオーズ(了)[書簡全集175]

次の手紙 年別目次 リスト2 リスト1