手紙セレクション / Selected Letters / 1830年9月3日(26歳)

凡例:緑字は訳注

パリ発、1830年9月3日
エドゥアール・ロシェ宛

親愛なエドゥアール、
僕が1等賞を得たことは知っていると思う。この方面の心配は、これで片付いたが、ほかの心配がたくさんある。それが何かは、君も見当がつくと思う。親愛なエドゥアール、そう、彼女のことだ。僕の魅惑的な空気の精、僕の愛しいカミーユのことだ。僕のすべての心配が、彼女のことに集中している。僕の両親は、たぶん君も知っていると思うが、僕らの結婚に同意した。君の従兄弟のジョセフが情報収集を依頼されたが、集まった情報はすべて彼女に有利な内容だった。だが、彼女の母親が、ただ暫定的にではあるけれども、僕らの結婚に反対している。僕のキャリアがもっと発展し、オペラ劇場で確固たる地位を築くことが、どうしても必要だというのだ。彼女の父親も同意見だ。とはいえ、やっと週に2、3回会えるようにはなった。彼女は僕を愛している。僕を愛しているのだ(elle m’aime, elle m’aime …)・・・。このことが君に納得できるだろうか?誰にも愛されたことのないこの僕を。このような天使が!たぶんヨーロッパで並ぶもののない才能の持ち主が!・・・この愛がどんなふうに始まったかを、もし君が知っていたら?いや、たとえそれを語っても、君は信じないだろう( Non, tu n’en reviendrais pas; )。風変わりな人生を送るべく、僕は生まれついている。気の毒なスミッソンは、まだ当地にいて、自分の値打ちをさらに下げている。ああ、僕の天使、僕のカミーユ!僕らの愛が僕にもたらしたすべての悲哀、これほどまでにしばしば僕を餌食にした不安と別離の悲しみにもかかわらず、それが始まった一瞬に、僕は感謝している。彼女は、僕のコンクールの結果を心配してあまりに苦しんだので、まだひどく体調が悪い。彼女は学士院の公開演奏会と、その翌日のイタリア劇場での演奏会に来ることになっている。イタリア劇場では、僕がその日の演奏会のためにいま作っている新しい作品[『シェークスピアの「あらし」に基づく劇的幻想曲』〜後に『レリオ』の終曲となる〜のこと]が演奏される。続く11月21日、僕は大がかりな演奏会を開き、僕の『幻想交響曲』を演奏する。・・・
だが、これらの計画には、回収できるには相違ないのだが、予めお金を用意する必要がある。[ローマ賞の受賞により]年次給費の受給が確定したいま、500フランの手形を半年間、僕に貸してくれることは可能だろうか。返却は容易にできる。演奏会が見込みどおりに成功すれば、もっと早く返せるだろう。君に迷惑を掛けることなくそうして貰えるかどうか、率直に知らせて欲しい。利息分を加えて君に送る借用証にどのようなことを書くべきかといったことについても。この件は、無論、僕ら限りにしておいてくれたまえ。率直な返事をくれることを期待している。
さようなら、さようなら。
H.ベルリオーズ
フィゲに宜しく。(了)[書簡全集174]

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