凡例:緑字は訳注 薄紫字は音源に関する注
パリ発、1833年2月5日
ナンシー・パル宛
ナンシー、僕はお父さんに手紙を書いた。仮に克服できないか、乗り越えることはできてもそれに時間のかかる障害が生じた場合、君の言うこの新たなドラマの大団円がどんなものになるか、君は知ることになるだろう。君はそれを気まぐれ( un caprice )と呼んだ。なんとおかしなことを言うのだ、君という女(ひと)は!!( malheureuse folle !!! )それ[=君が気まぐれと呼ぶ僕の思い]は、5年半もの間、ただその[=後出「火遊び」の]激しさにもかかわらずそれ[=僕の思い]を壊すことのできなかった6か月間の火遊び( une intrigue de six mois[=カミーユ・モークとの恋愛])によってしか中断されなかった、それほどの思いなのだ。危うく僕の命を奪うところだったこの責め苦( mps le supplice qui a failli me tuer [=ハリエットへの報われぬ愛がもたらした懊悩])を、これ以上長く我慢することはすまいと、僕は固く心に決めている。
お父さんなら、君よりはよく、僕を理解してくれるだろう。君はいま、アデールのことで何と言ったのか ?・・・いったいこのことのどこが彼女を傷つけるというのか。ああ、そんな理屈には、どう反論すればよいか分からない。
起こり得るどんな場合についても、僕の決意は完全に試験済みだ( est A TOUTE ÉPREUVE )。彼女は( ELLE )彼女で、耐えねばならない、ある口うるさい反対( une terrible opposition )に遭っている[ハリエットの同居の妹、アンの反対を指すものとみられる]。いま現在の、四六時中絶え間なしの反対だ。僕が原因で彼女も多くの心痛を味わっている訳だが、この点に関しては僕の方が彼女より進んでいる[後段(mais以下)の文意不詳~ Elle a bien des chagrins à essuyer à cause de moi mais je suis en avance sous ce rapport à son égard.]。だがもうたくさんだ!僕はもう十分苦しんだ。だから、( j’ai eu ma part de souffrance et je )
これ以上は御免だ(N’EN VEUX PLUS. )。
次の手紙も同じ調子だったら、もうこれからは君の手紙は開封しない。
さようなら、愛しい、優しい妹よ、さようなら、[自然の法則に逆らって]僕の邪魔をすることほど僕ら皆にとって危険なことはないということを、君が分かってくれますように( puisses-tu comprendre qu’il n’y a pas de choses plus dangereuses pour nous tous que de me contrarier. )。それは砲弾を空中で遮ろうとするようなものだから。
H.ベルリオーズ
2月5日(了)[書簡全集316]