手紙セレクション / Selected Letters / 1833年2月20日(ベルリオーズ29歳)

凡例:緑字は訳注  薄紫字は音源に関する注

ラ・コート発2月20日、
ベルリオーズ医師からナンシー・パル宛

気立ての良いわが娘(こ)よ、私の体調に関しては安心して欲しい。私の受けた衝撃は、当初私を打ちのめしたものの、じきに覇気が戻り、今はこのとおり回復している。現在いちばん心配なのはお前の母親のことで、こんなニュースを彼女に知らせるのは、できる限り遅らせる必要がある。エクトルが再度手紙で[結婚への同意を]懇願してきたが、それは新たな拒絶に遭った。彼は同じ日、ジュスト・ピヨンに手紙を書き、1回目のソマシオン( sommations 〜 催告)[父母の同意のないまま結婚するために3度実施することが必要とされていた父母に結婚への諾否を問う証書を差し出す手続。詳しくは2/3付ベルリオーズ医師宛の手紙訳注「当時の結婚法制について」参照]を行うための委任状を送った。ピヨン君は、より好意的な公証人を見付けるよう彼に伝え、委任状を送り返した。彼が声を掛けそうな他の公証人たちも、十中八九同様の対応をするだろう。

この悲しむべき状況のことは、お前の叔父のヴィクトル[ベルリオーズ医師の弟]にも知らせてある。お前はこのことについて彼と話して差し支えない。すべての公証人に断られたエクトルが検事長( procureur général )をしている叔父に相談する可能性があるから、対策をしておく必要がある。我々にできるのは、困難を大きくすることだけだ。この最後の頼みの綱に取り組み、あとは運を天にまかせよう。

いま3時で、お母さん[ベルリオーズ夫人]がリヴ( Rives [グルノーブルの北西、ラ・コートとグルノーブルの概ね中間に位置する町])から降り止まぬ雨を連れて帰ってきた。その雨で装身具が少し傷んだが、大した被害ではない。

ヴァンサンドン氏から手紙が届き、夫妻のご自宅に招かれた。愛しいナンシー、私には旅行は難しく、ほとんど不可能だから、お気持ちに添いかねることを残念に思っている旨を氏に伝え、返事を認(したた)める骨折りを省けるようにしてくれないか。

カミーユ[ナンシーの夫、パル判事]がこの頼みを引き受けてくれれば有難い。彼とお前の両頬に接吻する。パル家の他の皆さんにも、お前に大変親切にしてくださっていることへの謝意を含め、何卒宜しく伝えてくれないか。

さようなら、さようなら、お前がこのところ十分健康だとアデールが教えてくれ、私は一瞬喜びを覚えた。

L .ベルリオーズ(了)[『家族の手紙』No.314]

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