手紙セレクション / Selected Letters / 1832年7月18日頃(家族の手紙)

凡例:緑字は訳注  薄紫字は音源に関する注

ナンシー・パル[在グルノーブル]からアデール・ベルリオーズ[在ラ・コート・サンタンドレ]

愛しいアデール、あなたの大切なエクトル兄さんを、やっとそちらに返します。彼の愛想のよさ(amabilité)はそのままで。こんな言い方をするのは、彼は当地でそれ[愛想のよさ]を少しも使わなかったからです。義母の家[ナンシーの住まい]では終始不機嫌で、皆が彼を人間嫌いのがさつ者だと思ったとしても仕方なかったと思います。実際、そうとしかとりようがありませんでした。むっつりした、人を寄せ付けない顔をせずにこの家に帰ってきたことが、ただの一度もなかったのです。グルノーブルにいるせいでそうなるのだとしたら、なぜこれほど長くここに居たのか、理解できません。そんなふうに不機嫌にしている彼を見るのは、本当に苦痛でした。氷のような彼の沈黙に何度も胸が張り裂けそうになりました。あれ以上無遠慮に皆に不機嫌にすることは不可能です。兄さんの断固たる賞賛演説者(son panégyriste fidèle)であるあなたには、本当はこのようなことを書くべきでないのかもしれません。けれども、お母さんには話したくないし、この気持ちを誰かに打ち明けたかったので、あなたに言うほかないのです。大切なアデール、可哀想に思ってください、こんなに長く気の毒なカミーユ[ナンシーの夫、カミーユ・パルのこと]に会えずにいることを。どうすればこの恐ろしい不在に打ち勝つことができるのか、分からずにいるのです。

さようなら、近いうちにまた書きます。
姉より

N.(了)[『家族の手紙』No.295]

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