手紙セレクション / Selected Letters / 1832年7月10日(28歳)

凡例:緑字は訳注  薄紫字は音源に関する注

グルノーブル発、1832年7月10日
トマ・グネ宛

親愛なグネ君、

例の拙い小品[『囚われの女』。2月17日付の手紙参照]を、貴君に送る(Je vous envoie(1) la petite couyonade ou couïonnade en question.)。貴君にそれを手渡してくれるだろう人は、僕の義弟、パル氏だ。貴君が送ってくれた(m’avez envoyée(2))美しい詩に音楽を付そうとしたが、うまくいかなかった。この詩には風刺の利いたところがあり、そこが難しいのだと思う。首尾よく仕上げることが出来たら貴君に送る(vous l’enverrai(3))。シュレザンジェ[パリの楽譜商]の店に僕らの歌曲集[『アイルランド9歌曲』]の余部がまだあったら、ついでに1部、送ってくれないか(m’envoyer(4))。オルタンス王妃の女官、ラクロア夫人にこの歌曲集を送る(lui envoyer(5))約束をしているのだが、その約束を違えたくないのでね。手元にあった最後の1部は、メンデルスゾーンに贈った。(動詞 envoyer[送る]の活用、忘れてしまっていなければいいのだが。)

ここ数日、僕は愚鈍の極みの状態にある。だから、この手紙が意味をなしていないからといって、悪く取らないでくれたまえ。ここが暑すぎるのだ。それに、僕はひどく飽き飽きしている。僕の考えは、暗く、粗暴になっている。僕は、ひどくばかになっている。

フェランにはまだ会っていない。デマレが几帳面に(ponctuellement[「時間に正確に」のニュアンス。「前年5月ニースから送った手紙に今ようやく」という、軽い非難の気持ちをユーモラスに表した言葉])返事をくれた。彼に会ったら、僕が彼の質問にまだ答えていないからといって、じれずにいてくれるよう、伝えて欲しい。ラ・コートに帰って落ち着くのを待っているのだ。この地グルノーブルでは、今日までお決まりの放浪者の務めを果たすことだけに明け暮れている。あちこちの別荘を訪ね、叔父、叔母、いとこ、結婚した友人たちに会うこと、結婚する友人たちの結婚式や披露宴に出ること、球技(boules)の勝負をすること、水浴すること、詰まらぬ物思いに耽けること、童心に返って大編成の軍楽隊について歩くこと(僕はこれが楽しみだ)、とまあ、こんな具合だ。

さようなら、親愛な友よ。
僕のせいではないこと、僕が陰謀家のごとく本当にばかになっているということを、分かってくれたと思う[「陰謀家のごとく」(暫定訳)の部分、意味不詳。原文:Vous voyez que ce n’est pas ma faute et que je suis vraiment bête comme un conspirateur.]

追伸
ラ・コートに手紙をくれるときは、父への手紙と間違われないよう、僕の姓と名の両方を宛名に明記してくれたまえ。
『東方詩集』[ヴィクトル・ユゴーの詩集。『囚われの女』はその中の1編]はお持ちだと思う。僕は『囚われの女』の全ての連(tous les couplets)を憶えてはいないので、[貴君に送る楽譜に]それらを書き写すことはしていない。
ラ・コートには3日後に戻る予定だ。(了)[書簡全集280]

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