手紙セレクション / Selected Letters / 1832年6月11日(28歳)

凡例:緑字は訳注  薄紫字は音源に関する注

ラ・コート・サンタンドレ発、1832年6月11日
トマ・グネ宛

大切なグネ君、

お願いだ、一刻も早く安否を知らせてくれたまえ。このおぞましく訳の分からぬ事態[パリでのコレラの流行と6月に起きた共和派の蜂起を指す。なお、後者の事件は、後にヴィクトル・ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』(1862年)の題材とされ、同書第4部以降、特に同章第10章に詳しく語られることになる]の最中、僕がどれほど貴君のことを心配しているかは、貴君にも想像がつくと思う。こちらは数日前、ローマから帰って来たところだ。道中、フィレンツェ、ミラノ、トリノに滞在した。僕はまだイタリアにいることになっているので、パリに姿を現すことはできない。パリには11月、もし天がそれを許すなら、ちょっとした演奏会を開きに行く。その後、ベルリンに向け出発するつもりだ。

悲惨な日々の続く中、貴君はいったいどうして、僕にうんともすんとも言ってきてくれないのだろうか?・・・時間がないなら、長い手紙は書いてくれなくていい。数行の短信で十分だ。

貴君の返事があり次第(長くは待たされないことを期待している)、カザレ[『ルヴュ・ユーロペエヌ』誌の創刊・編集関係者]宛の短信と、その内容の説明、それに、長く貴君に借りたままになっているお金を貴君に受け取ってもらえると思われる方法の説明を、貴君に送るつもりだ。確かに僕は貴君に対し、ずいぶんと遠慮のない扱いをしている。貴君がルクルス[ローマの将軍、政治家]のように僕にこう告げるおそれもなくはないと思う。「私は知らなかった、あなたの友人たちにこのように守られる術(すべ)を」と。・・・いや、だが正直なところ、僕はその点は心配していない。貴君を最良、かつ、最も信頼できる友の一人と思ってもよいと言ってくれたのは、ほかならぬ貴君だということを、貴君がよく覚えていてくれているからだ。[本パラグラフは、全体として、『ルヴュ・ユーロペエヌ』誌がベルリオーズに対して支払の義務を負っている原稿料について、グネに受取の権利を与えることにより、ベルリオーズのグネに対する負債の返済としたいとのベルリオーズの希望について述べたものであるが、一部に難解な箇所(特にルクルスの言葉とされる一文)があり、拙訳は暫定的なものに止まっている。原文:Aussitôt après votre réponse qui, je l’espère, ne se fera pas attendre, je vous enverrai une petite lettre pour Cazalès dont je vous expliquerai le contenu et au moyen de laquelle je pourrai, je pense, vous faire toucher l’argent que je vous dois depuis si longtemps. Je vous traite bien sans façon, il est vrai, et je crains que vous ne me disiez comme Lucullus : « Je ne savais pas être si fort de vos amis » … Mais non, franchement, je ne le crains pas; vous savez très bien que vous m’avez donné le droit de vous regarder comme un de mes meilleurs et de mes plus solides amis.]

今年いっぱいはアカデミーの規則が僕をイタリア域内に閉じ込めているので、フランスに戻って来ていることは、あまり口外せずにいてくれたまえ。でないとオラス氏も僕も、窮地に陥りかねないからね。だが、ル・シュウール先生がお元気かどうかについては、何としても知りたいところだ。そのほかの友人たち、デマレ、プレヴォ、カジミール、テュルブリ、ジラールといった人々がどうしているかについても、できれば知らせて欲しい。ヒラーはフランクフルトにいる。フィレンツェで彼の手紙を受け取った。彼は僕宛の包み[モーク夫人がヒラーに預け、ベルリオーズへの返却を依頼した、ベルリオーズからカミーユへの贈り物が入った包み]のことで貴君を煩わせなかっただろうか?

来週、ベレーでフェランに会う。
が、この手紙への返事は、ラ・コートに送ってくれたまえ。
さようなら、大切な友よ。

H.ベルリオーズ(了)[書簡全集276]

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