手紙セレクション / Selected Letters / 1832年12月20日(29歳)

凡例:緑字は訳注  薄紫字は音源に関する注

パリ発、1832年12月20日
アデール・ベルリオーズ宛

可愛いアデール、

ナンシーは依然手紙をくれないが、一昨日、君の手紙を受け取った。君は僕の成功を喜んでくれるに違いないと思っていた。僕に関する記事を載せた新聞や雑誌を全部送れればよいのだが、数が21か22もあり、全てを手に入れている時間がない。その代わりに、大変興味深く熱のこもった記事を掲載してくれた週刊誌、「アルティスト」を、昨日送ろうとしたのだが、これがどこへ行っても買えなかった。僕の2度目の演奏会は、来週月曜に開かれるはずだったのだが、まさにその日にオペラ座の総稽古が行われることになって、オーケストラの奏者の一部と指揮者のアプネックを、この行事に奪われてしまった。という訳で、その後の日曜日、12月30日に延期することを余儀なくされた。元日の近くになるので、収益面では不利になる。それにもかかわらず、僕の音楽出版業者、M. シュレザンジェが、つい最近、この演奏会を彼に譲るなら2千フラン支払うとの申し出を再度してきた。僕は断った。経費があまりに膨大で、オーケストラ奏者の出演料も全部僕が負担するので、この申し出に応じても、あまり得になるとは思えないからだ。『秘密裁判官』序曲( l’ouverture des Francs-Juges )の再演も要望されているので、ヴィクトル・ユゴーの『囚われの女』( la Captive )とともに、プログラムの最後に加える。

さようなら。皆に知られている僕への賛成票( mon fameux suffrage )[1832年12月10日付アデール宛の手紙参照]について、それが誰からのものかについて思案するのはよしておきたまえ。いずれ分かるだろうから。だだ、その人はプレイエル夫人[かつての婚約者カミーユ・モークのこと]ではない。いずれにせよ、夫人のことは、僕には全くどうでもよい。一昨日再会したが、見知らぬ人に会うように感じた( Je l’ai revue avant-hier, comme on voit une inconnue. )。

親愛な良き妹よ、
もう一度さようなら。
君に優しく接吻する。
君の兄にして友の

H.ベルリオーズ(了)[書簡全集304]

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