手紙セレクション / Selected Letters / 1828年7月15日(24歳)

凡例:緑字は訳注

パリ発、1828年7月15日
アンベール・フェラン宛

親愛な友よ、
貴君の指示どおり、郵便で返事を送ります。貴君が書いてくれた2つの幕を、無事受け取りました。最後の幕は、素晴らしいと思う。特に、尋問の場面は、最高に見事だ。結末も、僕らが打ち合わせていたものより、はるかに良いものになっている。貴君に意見を述べねばならないのは、音楽の部分のカットについてと、第1幕で、類似した感覚が頻繁に組み合わされ過ぎ、不快な単調さが生じてしまっているところについてだけだが、その話はまた改めてしよう。
送る約束をした楽譜[『荘厳ミサ曲』第8曲『復活(と再臨)』等]は、本来なら、とうに貴君に届いているところなのだが、とうとう、ここまで遅れている理由を、打ち明けなくてはならなくなった。演奏会の後、父がまた気まぐれを起こし、もう仕送りはしないと言ってきたのだ。その結果、僕はまったく手許不如意になり、楽譜の複製に必要な、30フラン、40フランが出せなくなって、今まで何もできずにいるという次第だ。オーギュストに貸してくれとは言いたくなかった。すでに50フラン借りているからね。もう2週間も、学士院に閉じ込められているので、自分で写すわけにもいかない。このいまいましい[ローマ賞の]コンクールは、僕にとって、最下等の必要事だ。それというのも、要は、金になるからで、この卑しい金属なくしては、何もできないのだ。
Auri sacra fames, quid non mortalia cogis !
[『アエネーイス』第3巻からの、記憶に基づく引用。「金銭欲に駆られた者の悪業には限りがない」の意。]
父は、[試験会場になっている]学士院の宿泊・滞在費すら、出してくれる気がなかった。それをしてくれたのは、ル・シュウール先生だったのだ。貴君に知らせるべきニュースが入ったら、すぐに手紙を書きます。若い方のドデールが、8月12日にそちらへ発つ予定だから、そのときまでに用意出来れば、僕の音楽を、貴君に届けてくれるだろう。僕はいま、非常に気が沈んでいて、これ以上長くは書けない。言い忘れていたが、グネが、第2幕を書き上げた。
さようなら。貴君がカジミール・フォールと知り合ってくれて、とてもよかった。
『ヴェスタの巫女』が、今夜、7年ぶりに上演される。僕は行けない。ダバディ夫人のチケットが貰えるところだったのだが。僕がいま書いている場面(セーヌ)は、彼女が歌う予定だ。本人がそう約束してくれている。(了)

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