パリ発、1825年3月2日頃
妹ナンシー・ベルリオーズ宛
愛しいナンシー、
頼むから、できるだけ早く知らせてくれないか、君に返事を書いた後、お父さんとお母さんが、なぜこんなに厳しく沈黙を貫いているのかを。君だって僕の返事を読み、従順で親を敬う息子以外のものを見出しはしなかったはずだ。なぜなら、僕はお父さんに、僕としてはお父さんの意見に反対で、ラ・コートに帰っても無駄だとは思うけれども、お父さんがどうしてもと仰るのであれば、ご意向に従い、1年の仕事と数年にわたる将来を犠牲にしてでも、帰りますと答えているのだから。そちらに帰るにせよ、ここにとどまるにせよ、お金を送ってくれるつもりがあるのかないのか、僕はどうしたらよいのか、すぐに連絡して欲しい。はっきり言うが、ラ・コートに帰ることに不安を感じる。君までが、僕に偏見を持って、僕に次のようなことを示せという内容の手紙を、ためらいもせずに書いてくるのだから。
1 音楽家になったからといって、息子であり、兄であり、友であることをやめたわけではないこと、
2 作曲家という立場が、社会生活と相容れないものでないこと、
3 僕が物事を理解し、筋道を立てて考えることができること、
4 僕が直感を頼りに行動しているのではないこと、
5 僕が時や場所を心得、習慣や礼節を守ることができること、
6 僕が倫理上、自然上の理法の敵ではないこと、
7 僕がまっとうな人間としての資質と作曲家としての資質をうまく調和させることができること
8 僕が人を感嘆させようと躍起になっていても、なお人の敬意に値する人間であり続けられること。
君が改めて欲しいと思っている欠点がそれほど僕にあるというのなら、僕は悪い息子で悪い兄で悪い友で、はぐれ者で愚か者で狂人で、手の付けられぬ乱暴者で、倫理上・自然上の理法の攪乱者で、まっとうでない人間で、軽蔑すべき下劣な存在で、一言で言うなら、恐るべき凶暴で愚鈍な獣(けだもの)だということになる。そうだというなら、僕は君に強く薦めるが、僕がラ・コートに帰ったら、中庭に犬小屋を建てさせて、悪いことをしないように鎖で繋いでおけばいい。そんな不合理な感情や偏見がどんなに突飛でばかげた結果を導くか、妹よ、君も分かるだろう。
それでも変わらず君の兄で、友の、HB。(了)