凡例:緑字は訳注
ブザンソン発、1824年7月25日
フェリクス・マルミオン[エクトルの叔父]からナンシー・ベルリオーズ[同妹]宛
気の毒な愛しいナンシー、君の手紙は、僕をひどく悲しませた。エクトルの出発をめぐる痛ましい出来事の一部は、半ば予期していた。彼自身も、君の手紙と同じ日に届いた手紙で、要点を知らせてきた。君のお父さんは、彼にさらに時間を与えることまでしたのだから、いまは諦めて、好ましい局面の到来を待つことが是非とも必要だ。不幸な情熱が導く先を夢に見ながら、自らの信じるものに全身全霊を捧げられないでいるエクトルを見て、何の得になるだろうか?[中略]彼のいわゆる無神経については、僕はまったくそうは思わない。彼の手紙は、自然でありのままのものだったが、僕はそれを読んで、まったく反対のことを確信した。僕は彼が悲しんでいると思うし、お父さんの悲痛な願いは、彼に恐ろしい影響を及ぼすに違いないと思う。彼は、「僕はあのときのことを一生忘れないでしょう」と書いている。彼は自分が君たちに別れを告げた時の気持ちを、決して忘れないだろうし、僕は、幸せな結果がそこから生まれてくると思う。彼がいるうちに君たちと合流できなかったことを、とても残念に思っている。自分の影響力を過大に考えている訳ではないが、せめて仲介役を務め、ここまで深刻な意見の相違から生じる困難の幾らかを、取り除くことはできたのではないかと思う。[以下略][書簡全集29注]