凡例:緑字は訳注 薄紫字は音源に関する注
グルノーブル発、1833年8月27日
ナンシー・パルからベルリオーズ医師宛
大切なお父様
この手紙は、カミーユ[ナンシーの夫]の勧めで書いています。今日午後、エクトル兄さんのことで彼[カミーユ]のところにあった来客のことをお父様にお知らせするためです。アレクサンドル・ミシェルが来て、兄さんにお金を貸すよう、カミーユに長広舌を振るっていったそうです。兄さんは、ペネさんに再度手紙を書き、お金の調達を頼んだのだと思います。想像に難くないことですが、彼は、窮乏の極みにいるようです。望みどおりの額を彼に送るなど、絶対にあり得ないということは、私もよく分かっています。そのお金がスミッソン嬢の援助に使われるのを見ることほど腹立たしいことはないということもです!けれども、もしお父様が、兄さんの味わっているようにみえる悲痛な思いに、父親として心の奥底で同情をお感じになっているのなら、ロベールに手紙をお書きになり、この件について情報を得たり、彼[ロベール]の名義や経路で兄さんに何らかの支援を届ける方策を見付けたりすることもできるのではないかと思います。あの不幸なエクトル兄さんのことで、お父様にまた新たなご心痛をお掛けしなければならないことは、とてもつらいです。私たちは、ただ彼のことを忘れてしまうことだけを望むことがあるかもしれません。それでも、長く彼に関心を持たずにいることはできないのです。彼は、家族から孤立することを望みました。それなのに、この不幸な人は、家族なしにはやっていけないのです!・・・[略](了)
[家族の手紙327]
