凡例:緑字は訳注 薄紫字は音源に関する注
ベレー発、1832年8月25日
トマ・グネ宛
大切なグネ君、
貴君が託してくれた僕らの歌曲集[『アイルランド9歌曲』]2冊、それに、思いやりに満ちたとても感じのよい貴君の手紙を、義弟[妹ナンシーの夫、カミーユ・パル]が僕に届けてくれた。げんなりする暑さのせいで、僕が貴君に書いた手紙は、返事をもらえることなど期待すべくもない、愚にもつかぬ短信でしかなかったにもかかわらず。最近、上の妹[ナンシー]がユリアージュ(Uriage)の湯治場で貴君のご母堂をお見掛けして話しかけ、二人で僕らの話に花を咲かせたそうだ。その場に自分が居合わせなかったことは大いに残念だが、単に貴君の話をするだけでなく、貴君にじかに話すことのできる、もっと素晴らしい時が、遠からず来る。
この手紙は、フェランの家で書いている。2日後にはここを発ち、ラ・コートに戻る。時間をかけ過ぎる訳にいかない次の演奏会のため、済ませておくべきパ―ト譜作成の仕事が、まだ山のようにある。
ここド-フィネ地方での暮らしについて、貴君に何を話そうか? 写譜をして、弟と罠で狩猟をして、ド・バルザック氏、サンティーヌ、ミシェル・レモンを読み、そして退屈する。球技の勝負をして、そして退屈する。近傍の田舎を旅し、そしてまた退屈する。大好きだったイタリアの山国(mes montagnes d’Italie)を想う。僕がとても気儘に退屈していた場所だ。その地を懐かしみ、そしてさらにひどく退屈する。要するに、僕は楽しく過ごしている。
で、貴君はどうしているのか。「僕らは退屈する、あなた方は僕らを退屈させる」といった動詞活用を、貴君も見事に使いこなしているのだろうと思う[Et vous, je pense que vous conjuguez aussi fort bien le verbe « nous nous ennuyons, vous nous ennuyez » ]。
さて、何を書こうか。僕はただ、貴君に無事を知らせたかった。明日はフェランとエクス(Aix)の湯治場に彼の奥さんを迎えに行く。まだ[フェラン夫人に]会えていないのだ!
最も重要なことで貴君に話せるのは、これで全部だ。だからといって・・・いやまあ、さようなら[Voilà tout ce que je puis vous dire de plus important. Ce n’est pas… tenez, adieu. ]。
僕は今日、ひどくばかになっている。それでも今、一雨降ったところだ。
敬具
H.ベルリオーズ(了)[書簡全集287]