手紙セレクション / Selected Letters / 1831年2月13日(27歳)

凡例:緑字は訳注

マルセイユ発、1831年2月13日
妹アデール・ベルリオーズ宛

可愛いアデール、
お母さんに約束していたベレーからの手紙は、書かず仕舞いになってしまった。ベレーには、行かなかったからだ。フェランに会いたい気持ちはとても強く、[馬車の]席まで予約したくらいなのだが、愛する人[カミーユ]が不在であることの苦痛が、あまりに耐え難くなり、数日でもその期間が短かくなるよう、イタリアへの旅を急ぐ気持ちが、あまりに強くなったので、リヨンに着いた翌日には、もう同地を発ってしまったのだ。[リヨンからの]蒸気船は、途中、ヴァランスとアヴィニョンにそれぞれ一晩停泊する、通常より旅行時間の長い便だったので、乗合馬車を乗り継いで行くことにしたのだが、それに4日も掛かって、ひどくやきもきさせられた。
船長が約束どおりに船を出すなら(と言うのも、その約束が、少しも当てにならないからだが)、僕は、明日の晩、ここ[マルセーユ]を発つ。そして、まずはリヴォルノ[ティレニア海に臨む港町。フィレンツェの外港。]を目指す。そこからローマへは、陸路でも海路でも、容易に行ける。僕は今朝、海辺で、ちょっとした散策をした。もっと本格的なものにも、ぜひ挑みたいと思っている。この、海なるものは、荘厳な怪物だ[ベルリオーズは、このとき初めて海を見た。妹アデールは、まだそれを見ていない。]。その怪物が、浜辺に僕の足を舐めに来て、猛獣のように咆えながら、泡でそれ[=足]を覆う様子をみて、僕は、すっかり嬉しくなった。沖合では、さぞ見事に違いない[ の意か? Ce sera beau au large. ]
当地で、たくさんのパリ音楽院の知り合いに出会い、大きな劇場の入場券がすぐ手に入った。そうでなかったら、晩をどう過ごすか、思案してしまったところだ。前回の僕のコンサートで演奏を引き受けてくれた何人かの奏者が、僕に気付いた。僕の音楽は当地でも評判になっていて、僕は、熱烈な歓呼を受けた。とても特別な再会だった。
マルセイユはとても美しく、心の中の恐ろしい動揺さえなければ、僕は、この街を、大いに気に入っていたことだろう。
さようなら、可愛い妹よ。ローマに入ったら、すぐにまた手紙を書く。風の加減で到着が遅れることもあるから、心配せずにいてくれたまえ。(了)[書簡全集210]

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