凡例:緑字は訳注
パリ発、1830年11月19日
アンベール・フェラン宛
親愛な友よ、
数行の手紙を、貴君に急ぎ認(したた)めている。
ドゥナンの店に立ち寄って、100フランを内金として渡し、領収書を書いてもらった。もう100フラン、支払日が1月15日の手形も、預けてきた。
今日は、明後日行いたいと考えている僕の交響曲のリハーサルのために、一晩中、奔走する。12月5日の2時、音楽院で大規模な演奏会を開き、『秘密裁判官』序曲、『[アイルランド9]歌曲集』の『聖歌』と『戦いの歌』、100人の奏者による『サルダナパル』の『大火事』の場面、そして最後に、『幻想交響曲』を演奏する。
来たれ、来たれ。もの凄い演奏会になるだろう。アブネックが巨大オーケストラを指揮する。貴君が聴きにきてくれることを、僕は頼みにしている。
来週は、『あらし』序曲が、オペラ座で再演される。ああ、友よ!新しく、若く、風変わりで、大掛かりで、優しく、優美で、輝かしく、・・・これは、そういう作品だ。嵐というより、むしろ海の『あらし』は、途方もない成功を収めた。フェティスは、『ルヴュ・ミュジカル』誌に、僕についての素晴らしい記事を2本も書いた。
彼は最近、ある人が僕の体には悪魔がついている[活力に満ちている、の意]と評したのに対し、こう言った。
———そのとおり。彼の体に悪魔がついているとするなら、頭には、神が宿っているというべきだ。
来たれ、来たれ!
12月5日・・・日曜日・・・110人のオーケストラ・・・『秘密裁判官』・・・『大火事』・・・『幻想交響曲』・・・来たれ、来たれ!(了)[書簡全集189]
訳注/『あらし』初演
『シェークスピアの『あらし』に基づくファンタジー』(後の『レリオ』終曲)は、1830年11月7日、パリ・オペラ座の年金基金の募金のための演奏会の演目の一つとして、同劇場で初演された。残念ながら、リハーサルは成功したものの、演奏会の当日は、本物のあらしがパリを襲い、会場には、数えるほどの人しか集まらなかったという。このため、この企画は11月28日に再度実行され、『あらし』幻想曲も、この日再演されたと考えられている。(マクドナルド1章、ケアンズ1部26章)