説明: グルック『トリドのイフィジェニー』

音源(訳者のリファレンス)

  1. CD: ジョン・エリオット・ガーディナー(指揮)、リヨン歌劇場オーケストラ、モンテヴェルディ・コーラス、ダイアナ・モンタギュー、ジョン・アラー、トマス・アレン、ルネ・マシ / Iphigénie en Tauride, John Eliot Gardiner,  Orchestre de l’Opera de Lyon,  Monteverdi Choir,  Diana Montague,  John Aler,  Thomas Allen,  René Massis, Philips, 1985
  2. ブルーレイディスク: マルク・ミンコフスキー(指揮)、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル・グルノーブル、ネーデルランド・オペラ・コーラス、ミレイユ・デルンシュ、ロラン・アルバロ、ヤン・ブロン、ジャン=フランソワ・ラポアント、2011年ネーデルランドオペラの公演(『オリドのイフィジェニー』との組み合わせ)(日本語字幕なし) / Iphigénie en Taurine, Iphigénie en Aulide, Marc Minkowski, Les Musiciens du Louvre Grenoble, Chorus of Nederland Opera,  Mireille Delunsch,  Laurent Alvaro,  Jean-François Lapointe,  Yann Beuron, Opus Arte

人と作品

グルックは、18世紀後半、ウィーンで「オペラ改革」を行い、その後、その成果をパリにもたらした作曲家として知られています。グルックの「オペラ改革」とは、ソロ歌手の華麗な技巧の誇示等をオペラの魅力の中心に位置付ける、当時のイタリア楽派の作風を改め、劇(ドラマ)をオペラの中心に据え、台本と音楽(ソロ歌手、コーラス、オーケストラ)の緊密な協働により、統一的な劇世界を作り出すことを目指すものでした。

ハイドン、モーツァルトより、さらに前の世代の作曲家が、なぜ、それほど強くベルリオーズの心を捉えたのかを知るには、グルックの作品を、作曲者が想定していたとおりに、また、ベルリオーズが聴いたのと同じように、ドラマの文脈の中で聴く必要があります。

この部屋では、ベルリオーズに最も深い影響を与えた、グルックの代表作、『トリドのイフィジェニー』の台本の全訳を掲載しています。台本を一読されると、この物語が、緊張に満ちた、きわめてドラマティックなものであることが、よく分かります。その上で、ドラマの進行に合わせて、グルックの音楽をお聴きになれば、彼が書いた、歌手、コーラス、オーケストラの各パートが、いかに深く、ドラマの進行と結びついているかが、感じ取られることと思います。また、その結びつきが、単に装飾を付け、間(あい)の手を入れるといった、受動的なものでなく、場面の状況(たとえば冒頭の暴風、落雷)や、登場人物の感情(オレステスの苦悩、トアス王の恐怖、イフィジェニーの哀しみなど)を、音楽が、自らの言葉で、積極的、能動的に語ることで、ドラマに参加する、というものであることが分かります。ベルリオーズが共鳴したのは、まさにこのような、グルックの作風でした。

グルックの「オペラ改革」については、映画『改革者グルック(YouTube: Gluck the Reformer ) 』(約60分、英語)が、参考になります。この映画では、「改革」の対象とされたイタリア楽派の作例としてヘンデルのオペラの一場面が、また、フランスの古典オペラが新風の吹き込みを求めていた状況を示す例としてラモーのオペラの一場面が紹介されているほか、『トリドのイフィジェニー』の映像(2001年のチューリヒでの公演のもの)を中心に、グルックの主要作品のサンプル映像を観ることができます。字幕はありませんが、『トリド』の台本を一読された上でご覧になれば、おおよその内容は理解できると思われます。なお、挿入されているドラマに登場する2人の人物は、最後のオペラを書き終えたグルックと、後輩サリエリとの設定です。(了)

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