手紙セレクション / Selected Letters / 1828年9月16日(24歳)

凡例:緑字は訳注  薄紫字は音源に関する注

グルノーブル発、1828年9月16日
アンベール・フェラン宛

親愛なる友よ、
僕は、明朝、ラ・コートに向け出発する。貴君の手紙が届いた日以来、[グルノーブルに来ていて、]ラ・コートを留守にしているのだ。僕の方から貴君に会いに行くことは不可能だ。今月27日にはパリに向けて発つので、その前に不在になることを両親に話すことは、どうしてもできない。僕はもう、貴君のことを家族に話してしまった。彼らは貴君を待っている。貴君が手紙をくれてからは、ますます心待ちにしている。僕の妹たちや、この町のお嬢さん方については、その理由が、たぶんちょっと面白いものなのだけれどね。つまり、田舎の愉しみ、ダンス・パーティが問題なのだ。彼女らは、感じの良いパートナーを探しているのだが、ここにはそういう人があまりいないからね。上を下への大騒ぎになりそうになっていることについては、たぶん僕にも少しは責任があるが、この興奮と上機嫌を当地に広めたのは、僕では、全然ない。最近、父の家でカジミール・フォールに会った。彼はいま、彼の父親の田舎の家にいる。わずか2時間で往き来できる距離だ。ロベールも、僕と一緒に帰ってきている。彼は、昔の吟遊詩人(ミンストレル)のように、当地の令嬢たちの憧れの的になっている。お願いだから、できるだけ早く来てくれたまえ。貴君のための楽譜[『荘厳ミサ曲』第9曲『復活(と再臨)』全集CD13(9) YouTube: resurrexit berlioz 等]も、用意出来ている。
『ハムレット』と『ファウスト』を、一緒に読もう。シェークスピアとゲーテ!この2人は、僕の苦悩の物言わぬ聴き手であり、僕の人生の説明者だ。ああ、どうか、ラ・コートに来てくれないか!この2人の恐るべき天才を理解する人間は、この町にはいない。ここでは、陽光が、人々の眼を眩(くら)ませてしまっている。だから、これほどの天才も、彼らには、奇怪な存在にしか映らないのだ。一昨日、僕は、馬車の中で、『トゥーレの王』のバラードを書いた。ゴシックのスタイルで。もし貴君も『ファウスト』をもっているのだったら、その中の詩を歌えるように、この旋律を君にあげます。さようなら。時間と空間が、僕らを隔てている。別離があまりに長くなる前に、集まろう!
だが、ここまでとしよう。
「ホレイショー、君こそが、ともに語るべき男だ[ tu es bien l’homme dont la société m’a le plus convenu.. ]」僕はひどく苦しんでいる。もし貴君が来られらないことになったら、それは僕には酷(むご)い仕打ちになる。
さあ、来てくれたまえ!
さようなら。
僕は、明日にはラ・コートに戻っている。明後日、水曜日は、両親の接客の手伝いがある。検事長のド・ランヴィル氏が、叔父と一緒にこの家に来て、2日ほど滞在するのだ。僕は、27日には出発する。来週は、イポリト・ロシェールの従姉妹、あの美しいヴェロン嬢の家で、大きなパーティがある。
分かってくれたまえ![Voyez!](了)「書簡全集99]

訳注/エクトル5回目の帰省(1828年9月)
期間中、アンベール・フェランがラ・コートを訪れ、エクトルとの再会を果たし、エクトルの家族からも歓待された。エクトルは、シェークスピア女優ハリエット・スミッソンへの自らの想いを、(ラ・コートの家族には知られないようにしつつ、)この親友に、ついに打ち明けることができた。

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